2024-08-12 レポート:稽古場をひらく会:「身体から演技の方法を考える」WS(中島梓織/いいへんじ)

12月の新作公演に向けた、「贅沢貧乏の稽古場をひらく会」の全6回のレポートを以下の皆様に執筆いただくことになりました!(敬称略)

①身体から演技の方法を考える
中島梓織/いいへんじ主宰・劇作・演出

②新作のための脚本トーク
秋山竜平/脚本家

③新作のための美術・照明ミーティング
佃直哉/かまどキッチン・ドラマトゥルク / 企画制作

④新作公演読み合わせ
石塚晴日/ぺぺぺの会・俳優・制作

⑤新作公演立ち稽古
藤田恭輔/かるがも団地・自治会長

⑥“稽古場をひらく会”のフィードバック
中島梓織/いいへんじ主宰・劇作・演出

このレポートは、「贅沢貧乏の稽古場をひらく会」がどのような時間だったのか、
お越しいただけなかった皆様にも知っていただくことを目的としています。
また、贅沢貧乏として初めての試みを、他劇団/他分野で活動されている皆さんに見ていただきレポートを書いて頂くことにより、
稽古場を観客にひらくという催しがより広がれば面白いのでは!という思いから企画しました。

第一回のレポートは、いいへんじ主宰の中島梓織さんです!


開催概要:
(1)「workshop:身体から演技の方法を考える」


稽古場をひらく会:「身体から演技の方法を考える」WSレポート(中島梓織/いいへんじ)

こんにちは。いいへんじという演劇団体を主宰しております、中島梓織と申します。普段は劇作と演出を中心に演劇活動をしています。

先日、「贅沢貧乏の稽古場をひらく会」の記念すべき一回目、「workshop:身体から演技の方法を考える」を見学しました。稽古場でどんなことが起こっていたのか、どんなことを感じたり考えたりしたのか、あくまで私個人の視点からですが、レポートさせていただきたいと思います!

今回、稽古場に集まったのは、実際にワークショップを受講する「主にやる人」と、それを見学する「主にみる人」。ワークショップが始まる前は、緊張感がありつつも、これから始まる新しい試みへの、期待感や高揚感もあるような雰囲気でした。

ファシリテーターは俳優の辻村優子さん。ワークショップのタイトルにあるように、普段から身体から演技にアプローチをされていると言います。贅沢貧乏が「その方法をぜひシェアしてほしい!」というリクエストから、今回の会が実現しました。

ワークショップが開始される前に共有されたのは、主催している贅沢貧乏のメンバーも、ファシリテーターの辻村さんも、「やる人」も、「みる人」も、全員が「一緒にここにいる人」である、ということでした。わたしはここで、「みる人」がいわゆる「審査員」のような立場ではない、という声がけがあったのが、とても重要なことだと思いました。

通常、ワークショップは閉じられた場所で行われることが多く、それによって担保される安全や安心もあると思います。しかし、今回はその場所をあえて開くという試みです。「やる人」のみなさんは、ただでさえ初めての場所に緊張しているところに加えて、さらにそれを見られているというプレッシャーを感じてしまっても、おかしくありません。そこで、あくまでも「みる人」も対等な立場にある、ということを事前に共有することで、安心して挑戦して失敗できる場が用意されていたと思います。

辻村さんのレクチャーの前に、贅沢貧乏がPARAでの滞在制作中に開発したワーク、「内臓エモーション」を共有しました。
 
 上手い演技とは何か? リアルであることや現実模倣ができることを言うのか? もちろんそのような側面はあるけれど、それがすべてではなく、数ある演技体のひとつでしかないのでは? 例えば、悩みを抱える役を演じる俳優に対して、「もっと思いつめろ」というようなフィードバックをするのではなく、その人がどんな身体の状態にあるのか、というところからアプローチはできないか? そのような問いがきっかけとなって生まれたワークだそうです。

 ワークの内容は、身体の一部が書かれたカード(胃が、大腸が、心臓が、肺が、目の裏が、血が、肛門が、など)と、イメージが書かれたカード(燃えている、寒い、石のように重い、火花が散っている、など)を組み合わせて、どんな人に見えるかを周りの人がフィードバックする、というもの。実演してみると、「血が爆発している人」が、イライラしているように見えたり、見えないものと戦っているように見えたりする。「胃が凍った人」が、思い詰めている気持ちが溢れてしまいそうな人に見えたり、言いにくいことがある人に見えたりする。
最初から精神的なアプローチをするよりも、それぞれのオリジナリティが増して、演じる人がどのように言葉を捉えて身体で表現するのか、そして、見ている人がその身体をどういう感覚や感情と捉えるのか、その幅がぐんと広がっていくように感じました。

ここから辻村さんのワークに入ります。まずはランダムに稽古場を歩きます。辻村さんから「いまここはどんな空間?」「どんなものがある?」というような問いかけがされて、各々が興味があるものを意識しながら歩きます。そこから徐々に、外部から自分に矢印を向けていきます。足の裏から頭のてっぺんまで、身体の部位ひとつひとつに意識を向けます。

 そのときに辻村さんからかけられた「存在を思い出してください」という言葉が印象的でした。たしかに、普段の生活の中で、「おしりが動いているな~」「ここにひじがあるな~」と、身体の細部まで意識しながら歩くことは、わかりやすい痛みなどがない限りは、なかなかないことだと思います。

 一点一点に意識を向けることで、明らかに歩き方が変わるというわけではないのですが、なんとなく歩いているときよりも、俳優さん自身の輪郭がはっきりしてくるような感覚があり、それが見ているこちらにも伝わってくるのが不思議でした。人間の身体には、単純に言語化できない、無数の情報が秘められているのだな、と改めて感じました。

次に、辻村さんは、贅沢貧乏のワーク「内臓エモーション」を、自分のワークとマッシュアップしてみると言います。もともと用意されていたわけではなく、対話や実践を経て、いまここで新しいワークが生まれたのです。それぞれの知見を共有して、お互いが積極的にそれを取り込む。有機的な場だからこその展開に、ぐっときた瞬間でした。

 まず、「内臓エモーション」を使って身体の状態をつくる。そこから意識を外に向けて、歩き出せそうだと思ったら歩き出す。歩き出した先に見つけたものとどう対峙するかを観察する。というもの。例えば「血が爆発している」状態から歩き出すとどうなるか。実際にやってみて、フィードバックをし合いました。

 「血が爆発している」と一言で言っても、内出血派(血管の中がばちばちしている感じ)の人と、外出欠派(血管が破れて血が噴き出している感じ)の人が分かれていたり、特にどの部分が爆発している感じがあるのか、どのようにそのときの感情や感覚に影響があるのか、違いがあることがおもしろく、正解のなさを楽しむ時間になりました。

 この日のメインとなっていたワークが、「スタチュー」というワークです。二人一組になり、片方の人の身体を、もう片方の人が触って動かして、彫像をつくります。目線を動かしたり、表情を指示したり、細かいところまで調整をして、完成したらみんなで観察します。

 ここでキーワードとなっていたのが、身体から受ける「センセーション」という言葉でした。彫像になっているひとは、自分でこのポーズを作ったわけではないので、「このポーズをすることでどんな感覚を持つか?」を内側からよく観察し、覚えておきます。そこから少しずつ動いてみて、だんだんと普通の身体(街を歩いていても違和感のない人)になっていくのですが、内側で感じているセンセーションは保ち続けます。その延長線で、周りの人と目くばせをしたり、台詞をしゃべってみたりすると、自分では思ってもみなかった声が出たり、やりとりが生まれたりします。

 「やる人」のみなさんからは、「ポーズを他者に作ってもらったから、自分と切り離されてやりやすかった」「演じているのではなくそこにいるという感じがした」「周りから影響を受けるけど、それでも自分でいられる感覚ががあった」などのフィードバックがありました。こういう演技をしよう、とあらかじめプランを立てるのではなく、その瞬間の身体に正直に発話をすることで、独自性と説得力が生まれるのです。

最後は、「やる人」も「みる人」も一言ずつ感想を共有して、みんなで呼吸を整えて、ワークショップが終了しました。始まる前の緊張感はすっかりほぐれて、「充実した時間だった」「もっとやってみたい」が満ちた空間になっていました。

 今回のワークショップを見学してみて、改めて、「やる人」だけでなく「みる人」がいることが、すごく重要な会だったと思いました。「やる人」の身体が確実に変化していくのを、「やる人」本人だけが体感するにとどまらず、「みる人」が俳優の演技を観察するときの、視点や語彙が増える時間でもありました。

そして、私個人としては、このように健やかに稽古場が開かれていること、団体の内外を問わず全員アイデアが尊重される場所になっていることに、団体を主宰する者として、とても勇気をもらいました。風通しのいい創作の場を、観客のみなさんとともに作っていく試みが、これからもどんどん増えていくといいなと思います。いいへんじもぜひチャレンジしてみたくなりました!

 「贅沢貧乏の稽古場をひらく会」は、今年12月の本番、そのあとの振り返りまで、続いていきます。普段はほとんど覗くことができない演劇の創作過程を、ぜひたくさんの方に目撃していただき、それぞれの視点を共有していただけたら、とてもうれしいです。

撮影:高田亜美

執筆者:中島梓織

劇作家・演出家・俳優・ワークショップファシリテーター。いいへんじ主宰。個人的な感覚や感情を問いの出発点とし言語化にこだわり続ける劇作と、くよくよ考えすぎてしまう人々の可笑しさと愛らしさを引き出す演出が特徴。創作過程における対話に重きを置いて活動している。代表作に、『夏眠/過眠』(第7回せんだい短編戯曲賞最終候補)、『薬をもらいにいく薬』(第67回岸田國士戯曲賞最終候補)などがある。
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贅沢貧乏2024年12月新作公演 詳細はこちら↓
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